教育に情熱を注ぐ教員を後押しするコミュニティのことば

MOSTコミュニティのパターン・ランゲージ 

MOSパタのご紹介

MOSTコミュニティのパターン・ランゲージ(以下『MOSパタ)」ができた背景や特徴をご紹介します。

48個のパターンがまとまっているMOSパタ小冊子

実践コミュニティとしてのMOSTコミュニティ

教育改善を志向する活動の中で発展してきたMOSTコミュニティは、Wenger et al.(2002)が「あるテーマに関する関心や問題、熱意などを共有し、その分野の知識や技能を、持続的な相互交流を通じて深めていく人々の集団」とする実践コミュニティに相当すると考えています。MOSTコミュニティに参加するメンバーがどのように考え、行動し、活動を継続してきたのか、その経験則やコツをまとめるために、MOSパタの開発がはじまりました。

毎年開催されているMOSTコミュニティの夏合宿

MOSパタの開発

パターン・ランゲージは対象領域から見出される経験則やコツをまとめたパターンの集合です。個々のパターンは、ある状況で起こりがちな問題と解決の記述が核となり、状況(Context)、問題(Problem)、解決(Solution)の頭文字を取ってCPSと呼びます。井庭(2013)によるパターン・ランゲージの作成では、対象領域の経験者へのインタビューからマイニングという活動を行ってパターンの候補を見つけます。続いて各候補のCPSを記述しパターン・ランゲージとして体系化しながら最終的なパターンを固め、パターン名、導入文、イラスト、文章の形で個々のパターンをまとめていきます。関係するパターンは全体像の中でカテゴリーとしてグループ化して示すこともあります。

MOSパタの開発は2021年6月に開始、2023年3月に初版公開しました。井庭(2013)等を参考に、MOSTパターン・ランゲージの会のメンバーが中心となり開発を進めました。2021年にはMOSTコミュニティのメンバーに、フェローとしての経験やその後の活動についてインタビューを行いました。2022年にはパターン候補の検討とCPSの記述をもとに各パターンの文章執筆とイラスト作成を進め、ライターズワークショップと呼ばれるレビューの場を設定し、専門家やMOSTコミュニティのメンバーによる読み合わせを行いました。2023年に初版公開後も研究と追加開発を続け、2025年には増補改訂版を公開しています。

上:インタビューから付箋を使ってマイニング

下:コミュニティで自由に語り合うメンバーたち(「こうありたいを語り合う」のパターンイラストより)

MOSパタの発展

初版公開したパターン・ランゲージは「教育に情熱を注ぐ大学教員を後押しするコミュニティのことば」という名前で、27パターン9カテゴリーで構成していました。MOSTコミュニティの特徴を表すパターン、各自の考え方や行動に関するパターン、関係づくりに関するパターン、そして、コミュニティの育ての親である設計者の振る舞いをまとめたパターンで構成していました。

その後、初版公開したパターンを「実践コミュニティのことば」として中心的に24パターンにまとめ、このようなコミュニティを生み出した「コミュニティづくりのことば」を9パターン、MOSTコミュニティから発展した授業見学活動を参考にした「コミュニティが支える授業改善のことば」を15パターン追加開発しました。

2025年に公開した増補改訂版は、「教育に情熱を注ぐ教員を後押しするコミュニティのことば: MOSTコミュニティのパターン・ランゲージ(MOSパタ)」という名前で、48個パターンから構成されています。全体像のイラストには、育ての親がコミュニティの種をまいて水をやり、そこから生まれた実践コミュニティでメンバーが学び合っている様子が描かれています。実践コミュニティからさらに歩みを進めたメンバーは、それぞれの所属組織で新しい活動を始め、そこにまた新しいコミュニティが生まれようとしています。

MOSTコミュニティの全体像

MOSパタの使い方

MOSパタは、冊子版だけでなく、A6サイズのカード版も作っています。冊子版を読んでいただくと、実践コミュニティでの学び合いがどのような考え方や行動から実現されているのか、わかりやすいイラストとともに理解することができます。カード版を使ったワークショップでは、コミュニティに関わる各自の経験の共有、コミュニティに関わるお悩み解決に向けた検討、そして、これからつくってみたいコミュニティの在り方を考える活動等が可能です。詳細は、デイヴィスほか(2024)に紹介されています。

上:小冊子を使ったワークショップ

下:カード版を使ったワークショップ風景

*モスター君のお悩み集*

解決に向けたヒントをMOSパタから探そう

MOSTコミュニティのマスコットであるモスター君は、様々な悩みを持っています。皆さんの近くにも同じような悩みを持った仲間がいるはずです。そんな時、ポジティブに考えるヒントとしてMOSパタを使ってみてください。お悩み解決に向けての一歩がみつかるはずです。パターン・ランゲージは具体的な解決方法を提示することを目指していませんが、解決に向けての一歩となる考え方や行動のヒントを含んでいます。これがMOSTコミュニティという実践コミュニティから生まれたパターン・ランゲージの価値だと考えています。  

 

「自分の授業をよりよくするために、相談相手になってくれそうな教職員や、授業研究に詳しい研究仲間を得たい。学会の大会や研究会にも時々参加してみるが、自分の興味関心に合う話は少ない」

「MOSTコミュニティのような学び合いの場は貴重だと思うが、なかなか近くにこうした環境がない。MOSTコミュニティのような学びのコミュニティを続けていくためにはどうしたらいいのだろうか」

「100名以上の大規模授業だけでなく、ゼミの授業でも自走できない学生がいる。自分達で学んでいける学生になって欲しいと思っている」

「頼まれると断れず、色々なことに関わりすぎてキャパオーバーになっている。きちんと成果を出さなければいけないという気持ちもあり、しんどくなってしまう。また、関わる人が多すぎて関係性が深められず、顔も覚えられないこともある。こんなことでは信頼もなくしてしまうのではないかと心配になってしまう」

「授業で試したいアイディアがあったとしても、参考にできる事例や相談相手がいなくて、結局日々の授業や業務に追われるうちに学期が終わり、実践できないままで終わってしまう」

「共通教育科目を教えているが、学生の専門とあまり関係ないので、学生が時間をかけて勉強をしてくれない。授業外学習時間の確保がうまくいっていないので、うまく課題を設定して、学生がもっと授業外も勉強してくれるようにしたい」

「人材育成プログラムを考えているが、どのようなゴール設定,到達度評価を行ったらよいかがわからない」

「グループワークをコントロールする術がなかったので、うまく機能していなかった」

「他大学・他学問の知見を得たい。例えば、キャリア教育は学問として未成熟で、自大学でどのように位置付けるかの情報不足がある」

「学会はいいのだけれど、職場内には、腹をわって話せるコミュニティが意外とない。もっと、腹をわって話せる関係になりたいが、どうしたらいいだろうか」

参考文献

デイヴィス恵美・長田尚子・髙尾郁子・坂本洋子・神崎秀嗣・田口真奈 (2024) 実践コミュニティにおける活動と学び合いの推進に向けて─パターン・ランゲージを用いた事例検討とワークショップ─. 大学教育学会誌, 46(2) : 92-97

井庭崇・中埜博・竹中平蔵・江渡浩一郎・中西泰人・羽生田栄一 (2013) パターン・ランゲージ 創造的な未来をつくるための言語.慶応義塾大学出版会

Wenger, E., McDermott, R., and Snyder, W. (2002) Cultivating Communities of Practice. Boston: Harvard Business School Press. (野村恭彦 監修,櫻井祐子(訳)(2002) コミュニティ・オプ・プラクティス-ナレッジ社会の新たな知識形態の実践. 翔泳社)